同じ味噌や日本酒でも「昔ながらの木桶仕込み」「本格甕仕込み」とラベルに表記してあると、なんだか美味しくて、クォリティが高い・・・!といった印象があるのではないでしょうか?
我が国の醤油、味噌、日本酒といった発酵食品は、江戸時代まで木桶や甕で作られていました。プラスチックのない江戸時代でも、鉄など他の素材はあったのですが、その中で木桶や甕が選ばれてきたのは、何か理由があるはずです。
今回は、発酵食品と木桶、甕との関係にクローズアップしてきたいと思います。
甕の特徴
甕を使って作る発酵食品といえば、焼酎、泡盛、もろみ酢、黒酢などが有名ですね。大小、あらゆるサイズの甕を使って、それら発酵食品を作るのが伝統でした。しかし、現代では、ステンレス製やホーローでできた大型の容器で大量生産するのが、一般的となっています。
しかし、中には昔ながらの甕仕込みを採用している、本格派の酒造会社もあります。手間がかかるので、人件費がかかってしまうのですが、それでも甕を採用するのは、良さがあるからです。
甕(かめ)で発酵させるといい理由
まず、甕の素材が持つ構造に秘密があります。陶器には、目視では分からないほど小さな穴がたくさんあり、陶器が呼吸をしています。この、自然にできた通気性によって、発酵菌が消費する酸素をうまく取り入れているのです。発酵菌が呼吸することによって、発酵・熟成が安定的に進行します。酒造りのプロ曰く、甕の中から酵母が呼吸する「プツプツ・・・」という音が聞こえるのだそうです。
そして、甕のフォルムも発酵をするうえで重要な役割があるようです。甕特有の丸みを帯びた形は、発酵過程で、甕の中にほどよい対流を発生させます。これによって、温度や発酵の進行にムラがなくなるというわけです。
陶器という材質も重要です。適度な厚みを持つうえに、空気を含んでいるので断熱性があります。甕の外の温度変化を緩やかに中へ伝えるので、発酵菌を急激な温度変化から守ります。
このような甕の働きによって、酒の味はまろやかになり、風味豊かになると言われています。
木桶の特徴
一方の木桶はどういった特徴があるのでしょうか? 日本酒、味噌、醤油といった発酵食品は、木桶で作るイメージがありますが、鎌倉時代中期ぐらいまでは、いずれも甕で作っていたようです。
鎌倉時代後期〜室町時代初期にかけて、木桶や樽を作る技術が発展し、普及したと言われています。軽くて大きな木桶は割れることがなく、甕よりも大きいので生産効率の面で優れていたのですね。フタをして運べる「携行性」の高さも優れており、時代を経るごとに甕は木桶に代わっていったようです。
興味深いのは、酒屋で使った木桶を、味噌・醤油屋が引き継いで使っていたという点です。最初に、酒屋が桶屋に発注して、新品の木桶を作ってもらいます。酒桶として、約30年使った後、味噌・醤油屋がその年季の入った木桶を買取ります。以後、100年はそのまま使い続けるというシステムが成立していました。極めて合理的でエコロジカルな、日本らしい仕組みです。
木桶で発酵させるといい理由
木桶は、甕と同様、外気温の影響を緩和する能力が高く、木桶の中身の温度を一定に保つことに長けています。さらに、木は水分を吸って中身の湿度を一定に保つことも得意なので、発酵・熟成に適した条件を保つことができます。
現代の生産工場において、温度・湿度の管理は電力を使う機械がコントロールしていますが、木桶はエネルギーを消費しなくとも自然に管理してくれていました。
そして、木桶最大の長所は、発酵菌が住みやすいということです。自然素材の木桶は微生物が繁殖しやすく、長期にわたって同じ木桶を使い続けることで、その土地と気候風土に合った発酵菌が生き残って活躍します。
それぞれの木桶で繁殖した発酵菌たちが、複雑に発酵に関与して、独特の味わいある発酵食品を生み出してくれます。
自然素材の木桶や陶器の甕(かめ)は発酵菌との相性抜群!
近代化以降主流になったステンレスやホーローは、発酵食品を安く、安定的に生産するという意味では社会に貢献していますが「まがいモノ」を一般化してしまったという面もあります。
甕や木桶といった伝統技術は、手間と時間がかかるので、全てをこれに戻すわけにはいきませんが、これらの技術が失われると、2度と復活させることはできません。「ロストテクノロジー」になってからでは遅いのです。ホンモノの価値を未来に残していけるよう、甕や木桶を使う酒屋をみんなで支えていきたいところです。